2018年10月10日特定非営利活動法人ジョイフルさつきの主催で生活保護基準引き下げ問題学習会をさつきつつじ会で持ちました。参加者は16名です。森口がレジュメ「生活保護費引き下げに対し抗議の声をあげていきましょう!」を提起しました。皆さんは真剣に聞いていました。様々な意見が出されました。生活保護費の引き下げに備えて色々工夫をされていました。「新聞をやめた」「タバコが10月から上がった。セブンスターは500円になった」「タバコをやめた」「来年10月から消費税が10%になる。生活が一層苦しくなる」「年に1回帰省するのでそのためにお金を貯めている」「今度喜望の家から一泊旅行に行く。1万5千円かかる。旅行費用は必要なお金だ」「今後年を取っていくことを考えて少しずつ貯めている」等々。審査請求をすることについても皆さん積極的でした。数人の方が「一人でするのは難しいので手伝ってほしい」と言われました。生活保護基準引き下げに対し抗議の意志を現すため審査請求に取り組んでいくことを確認しました。
【学習会資料】
生活保護費引き下げに対し抗議の声をあげていきましょう!
10月分の保護費の支給日は銀行振込の人は9月28日でした。前日の27日に西成区の生活保護利用者の皆さん宅に生活保護決定通知書が郵送されました。開けてみると、大阪市福祉局生活福祉部保護課の「生活扶助費の基準額改定について」というお知らせが同封されていて「平成30年10月から生活扶助費の基準額が改定されました」とだけ書いていました。改定の理由も書いていません。生活保護利用者のほとんどの人はこの手紙で初めて生活保護費の引き下げを知ることになりました。保護費の振込の前日に突然手紙を送りつけてきて来月から引き下げると一方的に通知する-お上意識丸出しの何という乱暴なやり方なんでしょうか。生活保護利用者の生活をどう考えているのでしょうか。腹立たしい限りです。
(1)大阪市で生活保護を利用する人の生活扶助費の引き下げの例
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2018年9月まで |
2018年10月から |
2020年10月から |
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75歳の単身者 |
74,630円 |
73,390円 |
70,900円 |
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引き下げ額 |
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1,240円 |
2,490円 |
合計3,730円 |
50歳の単身者 |
80,160円 |
78,830円 |
76,160円 |
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引き下げ額 |
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1,330円 |
2,670円 |
合計4,000円 |
(2)2018年生活保護基準引き下げの問題点
生活保護基準(生活扶助費)の見直しは5年ぶりです。今年10月から2020年10月にかけて段階的な引き下げが行われます。今回の引き下げでは子どもと高齢者が狙い撃ちにされました。
【問題点】
- 生活保護利用者の意見を聞いていない。
生活保護利用者の生活状況を聞こうとしない、知ろうとしない。 - 5年前の2013年の生活扶助費引き下げの影響と調査の検証がされていない。
2013年には「物価が下がった」として引き下げたのに今回は物価が上がっても無視している。引き下げありきです。 - 厚生労働省の「下位10%の低所得者層に合わせる」という理屈は間違っています。
下位10%一番低所得者層の人には生活保護基準以下の生活をしている人が多く含まれています。日本の生活保護の補足率は2割以下と言われています。下位10%の人に合わせていけば生活保護基準をどんどん切り下げることになります。 - 子どもの貧困対策に逆行しています。
- 生活保護基準は国民生活の最低基準(ナショナルミニマム)です。生活保護基準の引き下げは多方面に甚大な影響を及ぼします(最低賃金、住民税非課税基準、就学援助など)。
(3)釜ヶ崎-西成の単身高齢者への大きな影響
①貯金が難しくなります。
単身高齢者で障害者加算をもらっていない人の場合、現状でも毎月貯められるのは3000円から4000円。4000円引き下げられれば貯金が難しくなります。冷蔵庫やテレビ、エアコンなどが故障した場合、お手上げです。リフレッシュの旅行や親の墓参りに行きたくても行けません。隣にややこしい人が入ってきて転居したくなってもできません。将来体が不自由になった場合に備えて有料老人ホームに入居する費用も貯められません。また、病気で病院に通院するためのタクシー代もなければ大変しんどい思いをします。また、少しずつでもお金を貯めて好きなものや必要なものを買いたいなと思っていたことができなくなり、生活の張りや気持ちの余裕が失われていくことも考えられます。
②外出を控えて引きこもる人が多くなることが予想されます。
毎日喫茶モーニングに行っていた人が行けなくなることもあります。喫茶モーニング代350~400円。釜ヶ崎では日雇労働者の頃からの習慣で喫茶店通いが唯一の外出-社会的交流の機会になっている人は少なくないです。このような人も含めて外出-社会的交流をすればどうしてもお金がかかります。お金を使わないために部屋に引きこもってしまえば体を壊してしまうことになりがちです。結局回り回って医療費や介護費用を増やす結果をもたらすことに結びついていきます。
③節約するにも限界があります。
タバコ代 わかば360円、メビウス480円。
銭湯代 420円。
新聞代月額4037円。
携帯電話料金約5000円。
散髪代1500~3000円
お酒代。
④有料老人ホームの生活保護利用者は特に深刻です。
<有料老人ホームの必要経費(家賃以外)>
管理費・共益費 |
2万5000円~3万円 |
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食事代金 |
3万6000円~4万2000円 |
その他オプション費用 |
4000円位 |
合計 |
6万8000円~7万2000円 |
生活扶助費はほとんど持っていかれます。手元に5000円残ればいい方です。
<デイサービスを利用している人の場合>
生活保護利用者の1回の利用料は食事代金500円~600円(1割の利用者負担は生活保護の介護扶助で支給)。週1回利用で月2000円~2400円、週2回利用で月4000円~4800円。
デイケアの場合はもっと利用料が高いです。1回の利用料は900円~1000円。食事代に加えて日用品費や材料費も(訓練に必要なタオル代や手芸の材料費という名目で)。
有料老人ホームによっては1カ月の食事代金について食べても食べなくても支払って下さいというところがあります。そのような有料老人ホームに入居している人の場合、生活扶助費が引き下げられれば回数を減らすか、やめるしかなくなります。
<食事の問題も出てきます>
有料老人ホームの食事代金は1日3食で1200円~1400円、月3万6000円~4万2000円。生活扶助費を引き下げられて支払いが難しくなれば3食を2食にして1食代からお金を捻出するしかなくなります。例えば、朝食を止め食パン1枚にして朝食代300円×30日=9000円-食パン代でお金を捻出するというやり方です。ただ、有料老人ホームでこのやり方を認めるところもあれば認めないところもあります。
⑤アルコール依存症の人の断酒の取り組みにも悪影響を与えます。アルコールを断った生き方を選択していこうとする時、アルコール以外の楽しみや趣味、生きがいを持っていくことは非常に重要です。今回の生活扶助費の引き下げは楽しみや趣味に使うお金を削ることになります。作業所に通所している人であればレクレーション参加費や旅行積立金を削っていくことにもなりかねません。断酒の意欲の低下を生みます。
私たちは今回の生活保護基準の引き下げに反対します。
生活保護法第3条は「最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持するものでなければならない」とうたっています。健康で文化的な生活は毎月毎月の生活だけではありません。将来にわたるものであり、人生の最後に至るものです。また、文化的とは個人個人の多様性、個人個人の価値観、生活のやり方も含むものです(ライフスタイル、ライフプラン)。これは裁判所も明確に示しています(中島学資保険訴訟判決)。
ところが国の考え方は生きていくためだけのお金を出しておけばいい、毎月毎月食うていければいいというものです。これの一体どこが健康で文化的と言うのでしょうか。今回の生活保護基準の大幅な引き下げは、「健康で文化的な生活の保障」という生活保護法の目的原則を破壊していくものと言わねばなりません。生活保護基準引き下げの撤回を求めていきます。
(4)生活保護基準引き下げに対し審査請求に取り組みましょう!
今回の不当な生活保護基準引き下げに対し生活保護を利用する人が抗議の声をあげていくことがとても大事です。黙っていたらもっと無茶苦茶にやられます。
生活保護問題対策全国会議は1万人の審査請求を呼びかけています。私たちもこの呼びかけに応えて審査請求に取り組んでいきたいと思います。
審査請求とは
福祉事務所の処分に対する不服申立の手続きです。保護費をいくらにするかも「処分」にあたります。
どこに出すのか
大阪府知事、または地元の福祉事務所に出します。
いつまでに出すのか
10月の保護決定通知書を受け取った日の翌日から3カ月以内です。
具体的には
- 10月の生活保護費が書かれた決定通知書は絶対なくさないでください。
- 審査請求書の様式があるので必要事項を記入してください。
- コピーを2通取りそれにハンコを押し、保護決定通知書もコピーして配達証明郵便で提出しましょう。元の文書は控えとして保管してください。
一人でやるのは難しい…
審査請求は代理人を立てられます。弁護士でなくても支援者でも代理人になれます。
生活保護を打ち切られたりしない?
決してそんなことはありません。審査請求は生活保護法に基づく適法な手続きであり、生活保護利用者の権利です。不利益な扱いは許されません。
審査請求集中申立週間第1陣 | 11月19日(月)~22日(木) |
第2陣 | 12月10日(月)~14日(金) |