成年後見(任意後見)事業

成年後見制度とは

 成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度があります。

 法定後見は判断能力が不十分な人に対し、家庭裁判所が選任した後見人等が本人に代わって財産管理や医療・福祉サービスの利用の契約などを行うことでその人の生活を保護・支援する制度です。
 任意後見は今は判断能力がしっかりしているけれど将来に備えて財産管理や医療・福祉サービスの利用の契約などをしてくれる人を予め選んで公正証書で任意後見契約を結びます。将来、判断能力が不十分になった時、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、任意後見人が本人を援助します。

きっかけ

 2005年4月に個人情報保護法が全面施行されてから入院中の患者さんへの支援がやりにくくなりました。ヘルパーステーションさつきの利用者のAさんのケースでは、救急で搬送された病院が劣悪で有名なK病院でした。すぐに支援者が病院に駆けつけAさんに面会しました。入院直後に気道切開の手術を受け声が出せない状態でした。ベッドに紐で縛られていました。それでもAさんは必死に「帰りたい」と意思表示されました。主治医と面談すると、主治医は個人情報保護を名目に病状説明を拒みました。「何故病状の説明をする必要があるのか意味がわからない」「法的に権限のない者に教えられない」等々。その後も支援者が面会に行くと、Aさんは「かえる」「たいいん」「たのむ」と訴えられました。釜ヶ崎の支援に取り組む医師に協力してもらって別の病院への転院の手はずを進めました。その最中、容態が急変し亡くなられました。協力してもらった医師によると、気道切開の必要性も疑問とのことでした。Aさんの件はショックな出来事でした。さつきつつじ会の会員には障害の重度な仲間がいます。その仲間が入院するようなことがあった場合、本人が求めていない処置をされたり、別の病院にたらい回しされ、私たちとの関係も断ち切られてしまう可能性もあります。
 個人情報保護法ができる以前は支援者が医師に病状を聞いたら一定教えてくれましたが、個人情報保護法ができてからは説明を聞くこともできないし、さらに転院しても転院先も教えてくれなくなりました。劣悪な病院ほど個人情報保護法をたてにして何も教えてくれません。
 それであかり法律事務所の江村智禎弁護士に相談し、任意後見という方法があることを知りました。ジョイフルさつきは2008年から任意後見事業を始めました。任意後見の目的は、入院した時に不当な権利侵害に遭わないようにすることなので主眼は財産管理ではなく(生活保護利用者ですので財産と言えるものはありません)、入院契約や医療契約、福祉契約などの身上監護です。

具体的な進め方

 ジョイフルさつきが任意後見契約を結ぶ対象はさつきつつじ会の会員としています。会員でない人まで対象を広げることはしていません。
 代理権目録は財産管理、身上監護のすべての項目としています。
 報酬は無報酬です。
 死後の事務委任の項目も入れています。ジョイフルさつきが喪主となって葬儀を行うこと、遺骨に関して親族の引き取りがない場合はふるさとの家の納骨堂に安置すること、死後の事務委任の報酬は無報酬とすること。
 任意後見契約を希望する本人とジョイフルさつきは公証役場で任意後見契約を公正証書で作成します。任意後見契約の内容を法務局で登記します。
 本人の判断能力が衰えてきた時、ジョイフルさつきは家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。家庭裁判所は任意後見監督人を選任し、それをもって後見が開始されます。ジョイフルさつきは本人と任意後見監督人に対して3カ月に1回後見事務報告を行います。任意後見契約は本人の死亡をもって終了しますが、死後の委任事務は行います。

現状

 これまでにジョイフルさつきとの間で任意後見契約を結んだ人は2018年10月現在12人です。そのうち後見を開始した人は7人です(うち5人死亡)。現在、後見事務を行っているのは2人です。
 10年間の取り組みの中でご本人が劣悪な病院に送られそうになることが何度もありましたが、任意後見人としてきちんと阻止することができました。これは大きな成果だと思っています。